TECHNOLOGY DEVELOPMENT & PRODUCTS 点検ハンマーの種類・使い方と 点検ハンマーが抱える問題点とは
点検ハンマーをお探しの方へ
インフラ構造物を安全かつ健全に長期間使い続けるための点検用に、点検ハンマーをお探しの方に、
- 点検ハンマーとは
- 点検ハンマーの使い方
- 点検ハンマーの問題点
- 点検ハンマーの問題点を解消した点検ツール
をわかりやすく解説・ご紹介します。
点検ハンマー選びでお悩みの方の参考になれば幸いです。
点検ハンマーとは
点検ハンマー、検査ハンマー、テストハンマー、打音点検ハンマー等、さまざまな呼び方がありますが、いずれもハンマーで叩いた時の衝撃音や手指に伝わる微振動で、肉眼では確認できない対象物内部の損傷や劣化の状況を調べられる点検ツールが「点検ハンマー」です。
弊社では橋梁、トンネル、カルバートボックス等のインフラ構造物の点検業務の中で使用しており、「点検ハンマー」と呼んでおりますので、ここでは「点検ハンマー」という呼び方で統一させて頂きます。
なお、他の呼び方も概ね業務名称によって使い分けられているものが多いようです。例えば鉄道や自動車では、「車両検査」と呼ばれる業務の中で台車や車輪、ブレーキといった金属部品に使用していることから、「検査ハンマー」と呼ばれる傾向が多く、「テストハンマー」というと、コンクリートに打撃を与えてコンクリートの硬さを推定する試験器に用いられる呼び名となっている場合が多いようです。
形状としては、使用箇所や用途に応じてハンマーの打撃面の片側が平らで、反対側が尖った形状など様々なものがあります。この尖った部分は、コンクリートに対しては使いません。尖った部分は、車両等の台車や車輪あるいはブレーキの狭小部へ平滑形状側が入っていけないようなところにある金属や、非常に小さいボルト/ナットを対象に打撃を当てる場合に限定して使用するものとなっています。
なお、釘などを打ちつける金槌・ハンマーとは違い、点検ハンマーはあくまでも「点検」が目的のツールです。
インフラ構造物点検に使用する点検ハンマーの種類
インフラ構造物の点検用打音機器としての点検ハンマーの役割は下記のとおりです。
- トンネルや橋梁、カルバートボックス、擁壁等の無筋あるいは鉄筋コンクリートにおける空洞、内部鉄筋の腐食膨張あるいは閉塞ひび割れ等の変状箇所の特定
- コンクリート壁面などのタイル張りの浮きやはく離している箇所の特定
- 金属施設物等を固定しているボルト/ナットや固定金具などのゆるみ具合や破断有無の診断
用途に合わせた点検ハンマーの形状があり、材質や柄の長さ、重さなども異なります。
インフラ構造物の点検に使用する代表的な点検ハンマーの種類は、下記のとおりです。
- 鉄筋コンクリートの劣化や損傷を点検する「コンクリート点検ハンマー」
- 表面被覆された鉄筋コンクリート構造物表面を点検する「プラスチックハンマー」
- タイルの剥離を点検する「タイルハンマー」通称パールハンマー
- ボルト/ナットや固定金具などのゆるみ具合を点検する「テストハンマー」
点検ハンマーは様々なメーカーが用途別に、多種多様な点検ハンマーを開発・販売しているため、ご自身の目的にあった点検ハンマーを選ぶことが大切です。
ただし、橋梁やトンネル等のコンクリート構造物を対象としたインフラ構造物点検を実施する場合には、
ハンマー頭部重量が1/2オンス(約230g)のものを使用することが、「第三者被害予防措置要領(案)」(国土交通省道路局国道・防災課―平成16年3月)にて規定されていますので、それを遵守した点検ハンマーでなければなりません。
点検ハンマーの使い方
点検ハンマー頭部片側の平らな打撃面で点検対象を軽く叩き、その反響音や振動によって、肉眼ではわからない劣化や損傷を診断します。
点検ハンマーを使用する際は、力の入れ具合に注意が必要です。強く押し付けるような叩き方をすると打撃音が籠った音となり、適正な音が出ないばかりでなく手首に不要な負担を強いることにもなります。
また、打音する箇所の材質によっては、強い力で叩くと健全であった部分に余計な損傷を与えてしまうこともあります。
インフラ構造物の点検における使用方法
1.表面被覆の無い鉄筋コンクリート構造物表面の点検
鉄筋コンクリート構造物は、供用後の経過年数と共に中性化や塩害が進行し、内部鉄筋の腐食膨張に伴ってコンクリート表面のはく離が起きます。コンクリート表面のはく離は初期段階において近接目視で確認することが難しいことから、一般的な点検ハンマーで叩いて点検することが標準的となっています。
表1 金属製ハンマーを用いた打音によるコンクリート構造物の状態を判断する場合の目安
打音の結果 |
想定されるコンクリート構造物の状態 |
---|---|
キンキン、コンコンといった清音を発生し、反発感がある。(清音) |
健全 |
ドン、ドスドス等鈍い音がする。 (濁音) |
劣化、表面近くに空洞がある。 |
ボコ、ペコペコ等薄さを感じる音がする。 (濁音) |
はく離(浮き)している。 |
2.表面被覆された鉄筋コンクリート構造物表面の点検
はく落防止対策として、はく落防止シートやはく落防止ビニロンネットライニングにより表面被覆されたコンクリート面あるいは、補強対策として鋼板接着されたコンクリート面に対しては、一般的な点検ハンマーを用いると、これら表面被覆材を破損させてしまう危惧があるため、プラスチックハンマーを用いることとなっています。プラスチックハンマーの仕様に関して国の規定等はありませんが、大きすぎるハンマー頭部で叩くと点検対象物に不要な変状を与えてしまうことは通常の点検ハンマーと同じことですので、NEXCO東日本の保全点検実施要領ではヘッド重量が230g程度のものにプラスチック被覆されたものが望ましいとしています。
表2 プラスチックハンマーを用いた打音によるコンクリート及び 鋼構造物の状態を判断する場合の目安
点検対象の構造物 |
打音の結果 |
想定される構造物の状態 |
---|---|---|
はく落防止シート、はく落防止ビニロンネットが施工済みのコンクリート |
トントン、コンコンといった清音を発生し、反発感がある。(清音) |
健全 |
ボンボン等鈍い音がする。(濁音) |
劣化、表面近くに空洞がある。 |
|
ポンポン、ポコポコ、ペコペコ等薄さを感じる音がする。(濁音) |
はく離(浮き)している。 |
|
コンクリートに鋼板接着された鋼板部 |
カンカンといった清音を発生し、反発感がある。(高音) |
健全 |
コンコン鈍い音がする。(低音) |
劣化、表面近くに空洞がある。 |
3.タイル貼りコンクリート壁面部の点検
トンネル覆工などに設置された直貼り内装版は、トンネル覆工とタイルとの接着力が低下してはく落する懸念があります。これについては、一般的な点検ハンマーで叩くとタイルに割れや欠損を招く可能性があることから、通称パールハンマーと呼ばれる金属棒の先に小さな球体が固定された点検機器を用いて、下写真のように点検します。音の目安として、健全部は「カタカタ」という音、はく離部はポコポコ、ペコペコといった音が、状態判断の目安となります。
4.ボルト/ナット部の点検
ボルト/ナットは、異なる部材同士を固定(または接合)するために使用されますが、ボルトが破断した場合に破断箇所が部材を貫通している場所、あるいはナットの中にあるため、目視が不可能である場合があります。このため、点検ハンマーの平滑側をナット側面に水平方向に打撃し、打撃点と 90°~180°の位置に当てた指に伝わる振動、ナットの挙動の違いによって、損傷や軸力不足を検出します。ボルトにき裂あるいは緩みがある場合には、「ピィーン」という感じの振動が指に伝わり、その感覚的な現象により判定を行います。
また、ナットの緩みを確認する場合には、ナットの下側に指を添え、ナットの側面から締めるために回す方向へハンマーの尖っている側で叩き、その時の添えている指に挙動があるかないかを確認するのが一般的な点検方法となります。
設置状況が類似しているコンクリート部に打ち込まれているアンカーボルト/ナットも同様の点検方法となります。
5.吸音パネルの点検
半地下構造区間では、環境対策として下写真に示すような吸音パネルが側壁部に設置されていますが、側壁にしっかりと固定された骨組み材にパネル材が小さなボルト/ナットで固定されているため、ボルト/ナット部の劣化によってパネル材が落下する恐れがあります。一般的な点検ハンマーでパネル材の狭い枠部を叩いて確認すると共に手で揺らしてガタツキが無いか確認する揺らし点検の併用が行われています。
点検ハンマーの問題点
肉眼ではわからない劣化や損傷が診断できる点検ハンマーですが、下記5つの問題点があります。
1)点検範囲が広い場合、作業者の負担が大きい
2)1点ごとの打音となるため損傷を見逃す恐れがある
3)作業時間がかかる
4)点検結果が作業者の技量に大きく左右される
5)狭隘部の点検が困難
1)点検範囲が広い場合、作業者の負担が大きい
点検ハンマーを用いたコンクリート表面の打音点検は、一般部は25㎝以下、変状発生部等は20㎝以下のピッチにて叩くことが規定されています。点検範囲が広範囲の場合、長時間点検ハンマーを振り続けるため、手首を痛める恐れがあるのはもちろんのこと、橋梁のコンクリート床版下面やトンネルのアーチ部のコンクリート覆工面を打音点検する際には、背中を後ろに反らして首も後ろに傾ける体勢を長時間維持することとなり、点検員の疲労負担は大きいものとなります。
2)点での打音となるため損傷を見逃す恐れがある
点検ハンマーは1点ごとでしか点検できないため、点検範囲が広いと点検ハンマーの叩く回数が非常に多く、作業者の負担が大きくなります。また、たたき方が大雑把になり損傷を見逃す恐れが拡大します。
3)作業時間がかかる
2)同様に、点検ハンマーは「点」でしか点検できないため、疲労が蓄積しやすく作業に時間がかかります。
4)点検結果が作業者の技量に大きく左右される
点検ハンマーを用いた点検作業では、正常な箇所と問題がある箇所の音を聞き分ける技量が求められます。同様の損傷であっても、構造物により発生する打音は異なるため、損傷の特定は点検者の技量に左右されてしまいます。
5)狭隘部の点検が困難
狭隘部などの点検ハンマーが振れない場所での打音点検はできません。
点検ハンマーの問題点を解消した点検ツール
【コロコロeye®回転式打音点検器】
点検ハンマーの問題点を解消するために、独自に開発した点検ツール【コロコロeye®回転式打音点検器】をご紹介します。
コロコロeyeを使用することの最大メリットは、打音点検時における労働環境の改善であると言えます。
さらに、検証試験の結果、従来の点検ハンマーに対する優位性も確認しております。
また、コロコロeyeは、高速道路3社が規定している「点検支援技術審査基準に適合した検証試験」を実施・申請し、前述した『第三者被害予防措置要領の規定』による点検ハンマーと同等以上の性能を有するものであると認められた技術であると認証されております。
はじめに、コロコロeye®回転式打音点検器の特徴・仕様を紹介します。
柄の長さと角度が調整可能
柄の長さと角度が調整可能なため、様々な点検箇所に対応できます。
コロコロeye®回転式打音点検器は3つのタイプがあり、ロングタイプなら1.8m先まで点検可能です。
先端に取り付けられた「回転式金属製多面体装置」を転がすだけなので、狭隘部の点検も可能です。また、使用者への負担軽減のため、コロコロeye®回転式打音点検器は、軽さも耐久性も両立しています。
コロコロeye®回転式打音点検器の仕様
種類 |
長さ |
重量 |
備考 |
---|---|---|---|
標準タイプ |
440mm〜890mm |
約300g |
伸縮部ストッパー付き 先端曲がり角度30° |
ストレートタイプ |
360mm〜810mm |
約300g |
伸縮部ストッパー付き |
ロングタイプ |
1,800mm |
約800g |
コロコロeye®回転式打音点検器の仕様をもっと詳しく知りたい方はこちら
次に、コロコロeye®回転式打音点検器が解決した点検ハンマーの問題点を紹介します。
コロコロeye®回転式打音点検器が解消した問題点
1)点検者の負担を軽減します
2)「点」ではなく「線」での打音となるため損傷を見逃しにくくします
3)打音が聞き分けやすいため、点検者の技量に左右されにくくします
4)作業時間を短縮できます
5)狭隘部の点検が可能です
1)点検者の負担を軽減します
点検ハンマーとは柄の先の形状が異なり、「回転式金属製多面体装置」がついています。
その「回転式金属製多面体装置」をコンクリート面に押し当て移動・回転させることで(以下、「転がす」とします)、点検箇所を「点」ではなく「線」で診断します。
「回転式金属製多面体装置」を転がして点検できるため、従来の1点ごとの点検から、線の点検となるため打診の密度が向上するうえに、点検時間の短縮を可能とし、長時間の点検姿勢による点検者の疲労も大幅に減ります。
2)「点」ではなく「線」での打音となるため損傷を見逃しにくくします
模擬空洞供試体による検証により、点検ハンマーとコロコロeyeとは遜色の無い内部変状発見率であることが確認されています。
3)打音が聞き分けやすいため、点検者の技量に左右されにくい
柄の先にある「回転式金属製多面体装置」を転がして点検するため、連続して打音が発生します。このため、異音がわかりやすくなり、異音が発生する箇所も診断しやすくなります。
点検ハンマーのように、様々な箇所を何度も叩き、前後の打音を聞き分ける必要がないため、点検者の技量が低い場合でも劣化や剥離している箇所を診断しやすくなりました。点検ハンマーに対してコロコロeyeの方が個人誤差が生じにくいことを確認しています。
4)作業時間を短縮できます
複数の実橋による検証の結果、点検ハンマーに対してコロコロeyeを用いることで20~35%の時間短縮を図れることが確認されました。
5)狭隘部の点検が可能です
「回転式金属製多面体装置」を転がして点検するため、伸縮装置下の桁端部など、狭隘なために点検ハンマーを振ることができない箇所への適用性に優れています。
コロコロeyeは点検ハンマーとの使分けが必要
コロコロeyeは、「回転式金属製多面体装置」で弧を描けるところへの適用するものです。地覆の下面や側面など幅が狭く長い部材や、橋梁排水管等の添架物周辺では点検ハンマーの方が使い易い場合があります。このようなことから、両者を状況に応じて使い分けることにより、効率よく点検を進めることができます。
次世代型点検ハンマー・コロコロeye®回転式打音点検器
点検者の負担軽減、広範囲の点検、狭隘部の点検などをお考えの際は、次世代型コンクリート点検ハンマー・コロコロeye®回転式打音点検器のご購入をぜひご検討ください。